会長挨拶

2024年度から2年間、日本森林学会会長を務めさせていただくことになりました国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の正木隆と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

このたびの就任にあたりご挨拶を申し上げます。

私は2005年から約18年の間、主事あるいは理事として日本森林学会(以下、学会とよびます)の運営に関わって参りましたが、その間の会長は、大学教授の方または森林総合研究所の役員(理事)の方が務めておられました。一方この私は、森林総合研究所の非役員の管理職にすぎません。過去のパターンからは逸脱した会長といえるでしょう。私としてはこれは、会長であっても理事会の一員として実務に携わるべき時代になったのだろうと解釈しております。18年間学会の運営に関わってきた経験を今期の理事・主事の皆様と共有しつつ、学会の運営を堅実に進めていく所存です。

2020年から始まったコロナ禍の学会運営への影響もかなり薄れてきており、2024年3月に東京農大で開催された大会は、5年ぶりの対面開催となりました。この大会は、当初は対面での参加のみが予定されていましたが、1年前に副会長だった私が、無理を承知で大会運営員会の皆様にオンラインでの配信の導入をお願いし、試験的に対面開催+オンライン・オンデマンド配信という形で開催することとなりました。初めての試みだったこともあって当日はオンライン配信に関して一部でトラブルも発生し、必ずしも十分に満足いくものではなかった部分もあったと認識しておりますが、この経験を活かし、今後はより安定した運用を確立していきたいと思います。大会中の立ち話や大会後のアンケートでは、対面開催はやはりよいものだという感想を多くいただくとともに、育児や介護等で対面での参加が困難な方からはオンラインでの配信はありがたかった、という感想もいただきました。これらのご意見を踏まえつつ、これからも多様な研究スタイルに配慮した大会を開催できるよう、努力してまいります。

この学会の特徴の一つとして、大学や森林総合研究所など主に基礎・応用の研究開発を担う機関に所属する会員と、都道府県の公設林試や地方自治体など主に現場ニーズへの対応が求められる機関に所属する会員が、一堂に会している点があげられます。私としては、前者、すなわちアカデミック寄りの研究を進めていく部分と、後者、すなわち現場の森林管理に直結する研究を進めていく部分の両方が充実する必要があると考えております。そのため、理事・主事の皆様に過度の負担とならない範囲で、さまざまな取組みを検討し、バランスよく運営していきたいと思います。

現在、国際的には目まぐるしい情勢の変化が生じており、森林・林業分野もそれらと無縁ではいられません。2015年に採択されたパリ協定を受けて、日本は2050年のカーボンニュートラルの達成を目指すこととなりました。また2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組では、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させ、2050年に人間と自然が共生する社会を実現することが目標とされました。いずれも、その実現には、森林・木材の吸収源機能や森林での生物多様性の保全や回復が重要な役割を担います。さらにこの流れを受け、カーボンクレジット市場の拡大や多様性の回復に対する企業からの資金提供など、木材販売以外の収入が将来伸びていく可能性もあります。森林科学には、こういった新しい動きに対して科学的な知見や予見を提供し、科学の面から裏打ちしていくことが期待されます。森林学会が学術団体としてこの期待に応えるため、日々の企画や年次大会での企画等を検討していくことといたします。

以上、会長として理事の皆様と協力しながら、会員の皆様の研究活動の支援、森林科学を通じた社会への貢献を強化できるよう努力して参りたいと思います。どうかよろしくお願い申し上げます。

日本森林学会会長 正木 隆

(2024年6月)