第131回日本森林学会大会/企画シンポジウム

S1 階層モデルが変える森林科学分野のデータ解析
Power of hierarchical model in forest science

コーディネータ: 飯島勇人(森林総合研究所)、伊東宏樹(森林総合研究所)

本シンポジウムの目的は、階層モデルというモデルが、森林科学分野で得られるデータ解析手法として非常に重要であることを普及することである。森林科学分野に限らず、研究者は自らが目にする現象と現象を駆動する要因を明らかにするためにデータを取得し、データを解析する。しかし、既存の解析手法には、大きく分けて2つの致命的な問題が存在する。1つは、特に野外で得られるデータには研究者が測定する過程で様々な誤差が含まれているため、それをそのまま真の値として扱うと、明らかにしたい要因の効果を検出できない可能性が高まることである。2つめは、既存の解析手法は興味のある特定の要因の効果を帰無仮説の元で評価することが多いが、研究者が目にしている系全体(例えばある動物種の個体数の変化)の中で興味のある要因(例えば個体数の変化における出生率)がどのような働きをしているのかという、生態的な過程を考慮できない点である。近年海外で盛んに用いられている階層モデルは、これらの問題点を克服している。階層モデルは、興味のある現象やそれを駆動する要因を含む系全体の動態を記述するモデル(生態モデル)と、生態モデルで記述した要素に関して取得するデータの取得過程を記述するモデル(観測モデル)の2モデルから構成される。森林には様々な生物種が含まれ、気象などの外的要因も作用するため、その動態を司る要因は複雑である。また、森林を利用する人間の行動やアンケート結果も、その人間の性別や年齢と言った属性に加え、他者の存在なども影響するため、これらを司る要因はやはり複雑である。そして、このような状況で収集されるデータには様々な誤差が含まれ、欠測も生じうる。そのため、階層モデルは森林科学分野のデータ解析において非常に強力な枠組みとなり得る可能性を秘めているといえる。本シンポジウムでは、階層モデルを概説し、森林科学分野での研究事例を紹介する。

S2 森林遺伝研究で明らかにするブナの生態—樹木の生態遺伝学最前線—
Ecology of Japanese beech revealed by forest genetics: the leading edge in ecological genetics for forest trees

コーディネータ: 玉木一郎(岐阜県立森林文化アカデミー)、長谷川陽一(森林総合研究所)、稲永路子(森林総合研究所)、木村恵(森林総合研究所)

国内の様々な樹木を対象に森林遺伝研究が行われており,研究成果の蓄積が進んでいる。次世代シーケンサーの登場により,データ取得が加速される昨今,蓄積された個々の成果をつなぎ合わせ,もっと大きな枠組みで森林のメカニズムの理解に迫ることができる段階にあるのではないだろうか。例えば,系統地理学的研究では数十樹種以上の結果が論文として報告されており,情報の普及と活用を目指し,研究成果をまとめた書籍も出版されている。複数種の結果をまとめて活用した例である。一方で一つの樹種について,生態・生理を遺伝学的手法を用いて深く追求できている樹種は今のところ限られている。

 ブナは,日本の冷温帯の主要構成樹種の一つであり,九州から北海道にかけて広く分布している。日本海側では純林を形成し,太平洋側ではその他の高木性樹種と混交林を形成する。生態・生理に関する研究の蓄積が豊富なだけでなく,日本の森林遺伝学の黎明期から研究の対象とされており,現在でも多くの研究グループにより森林遺伝研究が進められている。

 本シンポジウムでは,ブナに関する最新の研究を紹介する。ブナの幅広い研究事例を遺伝学的視点から概観することで,日本を代表する広葉樹であるブナの生態について議論したい。また,ブナの例を通して,成果の蓄積と共有が今後,森林遺伝学の発展に与える影響について考える機会としたい。

S3 森林教育研究のさらなる展開を目指して—森林をフィールドとした教育実践活動から研究の可能性を探る—
For seeking to extend forest education research activities : exploring the possibility of research from educational activities in the forest

コーディネータ: 山田亮(北海道教育大学)、井上真理子(森林総合研究所)、中村和彦(東京大学)、芦原誠一(鹿児島大学)

日本森林学会では、森林教育に関するセッションが第114回大会から設けられ、第129回大会から教育部門が設置された。近年では、地域における森林体験活動の展開など、教育に関する研究は、推進が期待されている。ただし、森林に関わる教育活動は、専門家養成のための専門教育から一般市民や子ども向けの普及活動まであり、活動内容も幅広く、様々な実践活動が行われている一方、研究方法の確立には至っておらず、未だ発展途上といえる。森林教育を研究対象として捉え、人を相手にする実践が基本となる教育活動を多角的に読み解き、森林科学の一部門として研究の発展を図るには、近接領域にある多様な分野の研究者や教育活動の実践者がもつ視点を交えて、研究に取り組む必要があるといえる。

第129回大会では、森林教育に関わりが深い環境教育、野外教育、木材学や建築学の関係者とともに「森林教育研究のさらなる展開を目指して」と題した企画シンポジウムを開催し、森林教育研究の深化と拡がりの可能性を見いだすことができた。続く、第130回大会でも同様に、森林教育の近接分野の研究者が、教育実践活動から得られる効果について様々な視点で言及した。そして2019年5月、日本森林学会公開シンポジウム「新たな森林教育研究の挑戦−研究と実践現場をつなぐ−」の開催に至り、日本環境教育学会や日本野外教育学会、日本木材学会林産教育研究会との連携のもと、森林教育の実践や研究の課題を整理しながら、その意義や効果を森林科学に関わる研究者に伝えることができ、大きな成果を得た。

そこで、これまでの流れを踏まえ、森林教育研究のさらなる展開を目指して、近接領域の研究者や活動実践者からの研究や実践事例を集めたシンポジウムを企画した。森林科学の知見の普及に関心のある研究者や人材育成に関わる多くの学会員に参加いただき、ともに議論を行いながら、森林教育研究の可能性を追求していく機会としたい。

S4 森林環境譲与税と森林経営管理制度
Forest environmental tax and forest management system

コーディネータ: 香坂玲(名古屋大学)、内山愉太(名古屋大学)

森林経営管理法が2019年4月に創設され、市町村を中心とした新たな森林管理の枠組みが設けられた。同時にそのための費用を森林環境税の導入に先駆けて同年度から市町村に交付することとなった。もともと、その源流の異なる二つの政策である森林経営管理法と森林環境税(並びに森林環境譲与税)であったが、税制大綱をはじめ、都道府県の説明では緩やかに対をなすような形での説明が定着しつつある。

本セッションでは、森林の公益的機能の維持と経営管理の区分を前提としながら導入された森林環境譲与税の実情と課題を整理し、研究者と実務者の架橋により、政策的な示唆を抽出する。市町村における森林管理や林政への関心の高まり、施業の好機と肯定的に捉える評価もある一方で、国、自治体の各レベルで課題もある。例えば、既に県税として森林環境税を導入している府県は、税の住み分けを明確化する必要があり、都道府県と市町村の役割分担の見直し等も求められている。

自治体によっては大型の税収が見込まれるが、実態としては行政・現場のマンパワーや担い手不足の問題もあり、抱える課題は自治体毎に異なる面も大きく、もともとの制度設計と現場の間での調整や、自治体間での連携、情報共有が課題となっている。 そこで本セッションでは、新たな局面のタイミングにおいて、既に表れている課題や、今後想定される課題を抽出したうえで、課題への対応策について広く議論を行う。具体的には、森林環境税と森林環境譲与税の実態、県税との関係性、支援策としての意向調査、所有者探索、森林情報の共有の在り方(情報システム・GIS等)等を論考する。セッションでは、新たな政策の市町村の林政、市町村と都道府県の連携への影響の考察に加え、実務レベルでの課題、森林経理学の境界領域の議論にも注目する。

S5 周極域の森林における樹木の成長と炭素動態 —「樹木根の成長と機能」共同シンポジウム—
Tree growth and carbon dynamics in forest ecosystems in the circumpolar region

コーディネータ: 野口享太郎(森林総合研究所)、檀浦正子(京都大学)、平野恭弘(名古屋大学)

周極域の森林は地下部に莫大な量の炭素を蓄積しており、陸域生態系の炭素動態を理解する上で極めて重要な生態系であることが明らかになってきた。これらの周極域の森林を特徴づける要素として永久凍土の存在があり、いわゆる北方林は、面積にして20%以上が永久凍土上に分布している。しかしながら、森林限界以南の永久凍土の分布パターンには地域による違いがあり、シベリアでは連続永久凍土、アラスカ内陸部やカナダ北西部では不連続永久凍土、やや低緯度にあたるカナダ東部やモンゴル北部では点状の永久凍土分布が見られる。一方、フィンランドなどの北欧諸国では、森林の分布域は永久凍土の分布域と重ならない。

 このような永久凍土の存在は、優占樹種やその成長様式を決める規定要因となっており、例えば、シベリアのグメリニカラマツ林やアラスカ内陸部のクロトウヒ林では、成熟林の林冠閉鎖が見られない、地下部へのバイオマス分配が極端に大きい等、私たちが普段よく目にする永久凍土の無い森林とは大きく異なることが、過去の森林学会大会においても報告されてきた。このような特徴的な樹木の成長パターンは、永久凍土上の森林の炭素動態にも大きく影響することが想像されるが、根の成長や地下部の炭素動態については情報が少ないのが現状である。

 本企画シンポジウムでは、この分野の研究を20年以上にわたり牽引してこられた研究者の方々に、主にシベリア、アラスカ、カナダ、フィンランドで行われた研究について紹介していただき、周極域の森林における樹木の成長や炭素動態について情報共有する機会としたい。また、周極域は気候変動の影響を最も受けやすい地域と考えられ、実際に他の地域を上回る温度上昇や森林火災の増加などが観測されている。これらの現象の影響が懸念される中、今後の研究展開や取り組むべき課題についても考える場としたい。

S6 環境変化にともなう森林の生産性と分布の予測
Forest productivity and distribution under changing environment

コーディネータ: 渡辺誠(東京農工大学)

産業革命以降、化石燃料の消費増大に代表される人間活動によって、森林を取り巻く環境は劇的に変化している。気候変動に伴う降水量の変化、大気CO2濃度の上昇、窒素や硫黄などを含んだ酸性物質の沈着量の増加、オゾンやPM2.5などの大気汚染物質が森林生態系に与える地球規模の影響が懸念されている。このような環境変化は、光合成活性の低下、土壌の養分・水分の利用性や病虫害に対する抵抗性といった様々なプロセスに複雑な変化を与え、森林の生産性や分布に影響を与える。そして、そのフィードバック作用として、森林からの養分・水分および揮発性有機化合物などの放出特性も変化する。数十年以上かけて蓄積される森林バイオマス、環境資源としての森林の持続的利用、そして流域レベルでの物質循環の将来予測を行う上で、これら人為的な環境変化と森林・樹木における相互作用の理解は避けて通ることができない重要な課題である。本シンポジウムでは、中国科学院生態環境研究センターの曲来叶氏より中国の北京における大気汚染の樹木に対する影響に関して講演して頂く。そして、関連分野の研究者による環境変化と森林・樹木の関係についての講演を加えて、包括的な討論を行う。様々な分野における最新の知見を持ち寄り、日本をはじめとしたアジア地域の森林に対する大気環境の変化の影響と将来の展望を議論する。特に異なる分野間の異なるスケールで得られた知見を、どのように融合していくのかについての議論を深めることを目的とする。

S7 木質バイオマスの小規模利用に適した燃料調達から上手なエネルギーの使い方
From appropriate procurement of woody biomass for small-scale facilities to wise use of energy produced

コーディネータ: 有賀一広(宇都宮大学)、久保山裕史(森林総合研究所)、佐藤政宗(森のエネルギー研究所)

平成24年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度FITが開始され,木質バイオマス発電,特に固定価格が高値に設定された未利用木材を燃料とする発電施設が,平成30年9月時点で,全国で112ヵ所新規認定され,すでに61ヵ所で稼動しています。未利用木材を燃料として利用することは,林業振興や山村の雇用創出などに貢献することが期待されていますが,一方で出力5,000kWで60,000t/年程度が必要とされる未利用木材を買取期間20年間,安定して調達できるかが懸念されています。

そこで、FIT制度では平成27年4月より小規模な発電施設を整備し、地産地消を推奨するため、出力2,000kW未満で40円/kWhの価格が設定されました。また、木質バイオマス発電施設の発電効率は25%前後と低く、設備・燃料コストが高いため、高い経済性を確保することは容易ではありません。一方、バイオマスエネルギー利用の先進地である欧州では、木質バイオマスエネルギーの実に82%が熱として利用されており、実際に発電事業者の65%が熱電併給を行い、熱も生産しています。

このような中、農林水産省と経済産業省は平成29年7月に、報告書「『地域内エコシステム』の構築に向けて」を公表し、小規模熱利用・熱電併給の導入を促進しています。本企画シンポジウムでは、午前中に行われる公募セッション「木質バイオマスの小規模エネルギー利用の現状と課題」において紹介される各地域の取り組みを補足しながら現状を取りまとめ、課題を抽出するとともに、小規模熱利用や小型ガス化炉に適した燃料調達から生産された熱と電気の上手な利用方法まで講演者の皆様にご講演いただきます。多数の皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

S8 津波被災海岸林の再生を考える2:海岸林への広葉樹導入の可能性と造成生育基盤での広葉樹の生育状況
The possibility of planting broad-leaved trees in coast forests and the current growth state of the broad-leaved trees planted in the constructed and/or reclaimed afforestation bases

コーディネータ: 小野賢二(森林総合研究所)、野口宏典(森林総合研究所)、太田敬之(森林総合研究所)

東日本大震災大津波による被災海岸林の復興は「東日本大震災からの復興の基本方針」等、国の方針に基づいて取り組まれている。

 これまでの企画シンポでは、海岸林の復興を進める上で問題化した「盛土工を伴う生育基盤にの土壌物理性不良および植栽木の根系発達不良に着目し、造成基盤上への森林造成に関して、80年代以降のさまざまな実績やそこから得られた成果、併せて現行の海岸林復興における状況と現状の課題を紹介してきた。

 林野庁が諮問した東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会の提言「今後における海岸防災林の再生について」は、先般の甚大な津波被災状況を踏まえ、従前有した飛砂防止・防風・防潮等の各種防災機能の回復に加え、津波への被害軽減効果も考慮した海岸防災林の復興を検討し、地域における防災機能を確保する必要があるとした。さらに、そのための留意事項として、林帯の配置や盛土による有効土層厚の確保のほか、地域ニーズを踏まえた多様な森づくり・生物多様性保全の観点から広葉樹植栽の検討にも触れている。

 海岸林への広葉樹導入は、マツ材線虫病の顕在化以降、各地で検討され、試行されてきた。しかし、これまでの検討は耐風・耐塩性を中心としたもので、自然土壌とは異なった特殊な土壌特性を持つ造成基盤上への広葉樹導入は先例が少なく、知見の集積が求められている。

 本企画シンポでは、海岸林への広葉樹導入の可否に関して、事業ベースでの実績に基づいた取組、成果をご紹介頂く予定である。また、地域における減災、防災機能の確保の面から、こうした既存事業地に植栽された広葉樹の活着、生育、そして根系発達等の状況を研究的観点より現状の調査結果に基づきご報告頂く。そのうえで、現在進行中の海岸林復興事業も含めた、将来の海岸林(研究)へ期待されることや、海岸林の造成、保育、管理上の今後の課題について、情報を共有し、議論を深める場としたい。

S9 無花粉スギの普及促進に向けた技術開発の最前線
Frontier of techniques development aiming at deployment promotion of male-sterile seedlings in Cryptomeria japonica

コーディネータ: 高橋誠(森林総合研究所)、齋藤央嗣(神奈川県自然環境保全センター)、斎藤真己(富山県森林研究所)、山田晋也(静岡県農林技術研究所)

 近年、社会問題になっているスギ花粉症の解決に向けて林野庁は花粉発生源対策を推進しており、平成29年度には日本全国で約971万本の花粉症対策苗木が植栽された。現状ではこれらの大半が少花粉スギや低花粉スギであり、無花粉スギの苗木生産量は数万本程度にとどまっている。しかし、無花粉スギは花粉を全く飛散させない特性を有していることから、今後の花粉発生源対策における積極的な普及促進が望ましい。

 そこで、本シンポジウムでは無花粉スギの普及促進に向けて、農業分野との連携や、果樹分野からの技術の導入、地域環境の活用等といった独創的な発想で技術開発を行っている研究者らに最新の成果について報告していただく。また、新たに開発した技術を導入することによる低コスト化や省力化の可能性についても情報を提供していただき、今後の各地域における増産体制の整備の見通しなど、無花粉スギの今後の普及促進について討議したい。

S10 次世代の林業技術者育成に向けて —誰が森林のデザインを担うのか
Cultivating the future generation of the forestry expert – Who shall design forest and forestry?

コーディネータ:  田村典江(総合地球環境学研究所)、奥山洋一郎(鹿児島大学)

森林環境税の導入や森林経営管理法の策定など、森林管理の政策枠組みが大きく変化している。しかし制度は森林管理に実効性を持たせるための道具に過ぎず、地域の森林の将来像をどう描き、どう形づくるのかという問いは、本質的な検討課題として、依然、森林・林業界に残されている。

昨年度の本学会では、「現代の林業専門教育はどうあるべきか ―森林科学・技術と社会を再考する」というテーマで、専門教育に求められるものについて議論を行った。その結果、林業技術者は大きくマネージャーとワーカーに区分できること、両者の役割を理解した議論が必要である一方で、ワーカーについては緑の雇用研修や林業大学校等で体制の充実やカリキュラムの近代化が進んでいることが確認された。一方で、地域の森林の将来を描く能力、コーディネート力をもったマネージャーの育成については、あいまいな部分が多く残されていることわかった。

これまで、マネージャーの育成は公務員の再教育や資格取得に向けた研修として整備されてきた。これは、日本では従来、森林管理のマネージャーは、主として林業系公務員がその役割を担い、公務員育成のうちに技術者育成が内包されてきたためである。しかし、森林の将来ビジョンが一定であった間伐・育林中心の時代から主伐が本格化する時代へと移るなかで、地域の森林管理は行政のみで設計しうるものではなくなりつつある。例えば、ある林地に対して、将来的にも針葉樹の木材生産林にするのか、他の機能を重視した森林にするのか、場合によっては他用途に転用するのかなど、森林の将来を見通した生産、再造林の設計が重要であり、将来像を描く中で地域の様々な主体を取りまとめ、合意形成を担う技術者が必要とされている。本企画シンポジウムでは、誰が森林のデザインを担うのか、次世代の林業技術者育成に高等教育機関・研究機関はどのような役割を果たすべきかについて議論したい。

S11 生理部門企画シンポジウム「日本林業の造林技術的課題を樹木生理学から考える」とポスター1分紹介
Physiology Section Symposium “Approaching silviculture technical issues in forestry in Japan from tree physiology” and poster introduction

コーディネータ:  則定真利子(東京大学)、田原恒(森林総合研究所)、小島克己(東京大学)、斎藤秀之(北海道大学)、津山孝人(九州大学)、飛田博順(森林総合研究所)、松本麻子(森林総合研究所)

講演会「日本林業の造林技術的課題を樹木生理学から考える」と生理部門のポスター発表の1分紹介からなる生理部門の企画シンポジウムを開催します。

 生理部門では樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指します。個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象とした多様な手法によるアプローチを対象として、以下のキーワードを掲げています:樹木生理、個体生理、生態生理、水分生理、栄養成長、生殖成長、物質輸送、栄養、環境応答、ストレス耐性、光合成、呼吸、代謝、細胞小器官、細胞壁、植物ホルモン、組織培養、形質転換、遺伝子発現、ゲノム解析、エピゲノム解析、オミクス解析。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに本シンポジウムにご参集頂きたいと考えております。

 講演会では、日本林業が直面している造林技術的課題の解決に向けて樹木生理学的知見がどのように活かせるのかを考えます。東京大学の丹下健氏に現在の日本林業の造林技術的課題の概要と生理学的アプローチへの期待について講演頂いたのち、苗木生産に焦点を当て、森林総合研究所の原山尚徳氏に、苗木の生理生態学的特性の解明による、カラマツのコンテナ苗利用に関わる諸課題の克服に向けた取組について、また同研究所の森英樹氏に、QTL(量的形質遺伝子座)解析等を通して見えてくる、スギの成長量や材質の決定の仕組みについて、現在の知見の概説を含めて研究成果を披露頂きます。

 1分紹介では、生理部門でポスター発表をされる方に発表内容を1分間でご紹介頂きます。大会での発表申し込みの締め切りの後に、生理部門でのポスター発表に発表申し込みをされた方々に1分紹介への参加を呼びかける予定です。

S12 森林の多面的機能のモデリング:現状と課題
Modeling multiple functions of forest ecosystems — achievements and issues

コーディネータ:  山浦悠一(森林総合研究所)、五味高志(東京農工大学)、柴田英昭(北海道大学)

森林は木材生産機能のほかに水源涵養や国土保全、生物多様性の保全など、様々な機能を有する。国民から期待される森林の機能は地域によって異なる一方で、成熟した人工林は近年各地で盛んに伐採されるようになった。人工林の様々な機能をより高めるため、針葉樹単層林から広葉樹が混交し階層構造が発達した林分への誘導の必要性についても指摘されている。林相が森林の多面的機能に及ぼす影響を明らかにし、モデリングすることの重要性は、従来に増して大きくなってきたと言える。しかし、森林施業が森林の多面的機能に及ぼす影響については、従来から様々な研究が行なわれているものの、情報は断片的であり、林齢や樹木密度、構成樹種といった異なる属性を有した森林の多面的機能評価を俯瞰的に評価した事例はほとんどない。

森林を含めた各種土地利用が提供する機能(サービスとも呼ばれる)に関しては、InVESTモデルなど国内外で開発されたツールを用いて推定することが可能となってきた。一方で、人工林が森林景観で重要な日本では、天然林と人工林の差異を考慮に入れて森林施業と森林の機能の関係を明らかにし、それに基づいた新たなモデルを構築することも重要であろう。

そこで本企画シンポジウムでは、森林の組成や構造、立地環境とその機能の関係性、それらのモデル化について、その到達点と課題を関連研究者が集い議論する。研究成果を森林計画や政策に利用するユーザーからの視点、多様な森林管理のニーズなどの視点も交え、聴衆とともに森林の多面的機能のモデル化とその活用への議論を期待したい。

S13 国産漆の増産に向けて苗木生産を考える
To produce seedlings of lacquer trees, Toxicodendron vernicifluum toward high urushi lacquer production in Japan

コーディネータ: 田端雅進(森林総合研究所)、渡辺敦史(九州大学)

ウルシの樹脂を含む樹液(漆)は、国宝・重要文化財の保存・修復等伝統文化の維持に貢献してきたが、昨今伝統文化を支える国産漆の供給が危機的状況にある。現在、日本で使用される漆の約97%を中国産が占め、国産漆は残り3%程度しか生産されていない。国宝・重要文化財の保存・修復において国産漆と中国産漆を混合して使用してきたが、国においては国産漆のみを用いた国宝・重要文化財の保存・修復を進める方向で取り組んでいることから、安定的な需給体制を確立する必要性が高まっている。一方、ウルシ果実はロウ成分を含んでおり種子の発芽には脱蝋処理が必要であるが、種子発芽に関わる十分な知見はなく、苗木供給体制の整備も遅れていることから、近年、苗木が不足する問題が発生している。これまで平成22年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業及び平成28年度農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(現、イノベーション創出強化研究推進事業)で研究を行い、第123・124・129・130回森林学会のテーマ別シンポジウム及び企画シンポジウムにおいてウルシ林の植栽適地、漆が良く出る個体を確実に識別・同定出来るDNAマーカーの開発、国産漆の生産に関わる収益性等について報告し、情報共有した。

 今回のシンポジウムでは、ウルシ林における遺伝的多様性、発芽処理が種子発芽に及ぼす影響、種子生産を阻害する被害等の研究成果を発表していただき、苗木生産技術に関わる課題を整理し、今後の苗木供給体制の整備について議論を深めたい。