Journal of Forest Research Vol 16, No 5 (2011年10月)
特集 ― 環境変動下における森林生態系の土壌窒素動態
種類: 特集/巻頭言
Title: Soil nitrogen dynamics of forest ecosystems under environmental changes
巻頁: J For Res 16 (5): 331-332
題名: 環境変動下における森林生態系の土壌窒素動態
著者: 柴田英昭,戸田浩人,稲垣善之,舘野隆之輔,木庭啓介,丹下健
所属: 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
種類: 特集/総説
Title: Nitrate dynamics of forested watersheds: spatial and temporal patterns in North America, Europe and Japan
巻頁: J For Res 16 (5): 333-340
題名: 森林集水域の硝酸動態:北米,ヨーロッパおよび日本における時空間パターン
著者: Myron J. Mitchell
所属: SUNY-Environmental Science and Forestry, USA
抄録: The relationships of nitrogen biogeochemistry are reviewed, focusing on forested watersheds in North America, Europe and Japan. Changes in both local and global nitrogen cycles that affect the structure and function of ecosystems are described. Within northeastern United States and Europe, atmospheric deposition thresholds of ~8 and ~10 kg N ha−1 year−1, respectively, result in enhanced mobilization of nitrate. High nitrate concentrations and drainage water loss rates up to 22 kg N ha−1 year−1 have also been found near Tokyo. Although atmospheric deposition may explain a substantial portion of the spatial pattern of nitrate in surface waters, other factors also play major roles in affecting the spatial patterns of nitrogen biogeochemistry. Calcium availability influences the composition of the vegetation and the biogeochemistry of nitrogen. The abundance of sugar maple is directly linked to soil organic matter characteristics and high rates of nitrogen mineralization and nitrification. Seasonal patterns of nitrate concentration and drainage water losses are closely coupled with differences in seasonal temperature and hydrological regimes. Snow-dominated forested catchments have highest nitrate losses during snowmelt. Watersheds in the main island of Japan (Honshu) with high summer temperatures and precipitation inputs have greatest losses of nitrate occur during the late summer. Understanding future changes in nitrate concentrations in surface waters will require an integrated approach that will evaluate concomitantly the influence of both biotic and biotic factors on nitrogen biogeochemistry.
種類: 特集/総説
Title: Atmospheric deposition and leaching of nitrogen in Chinese forest ecosystems
巻頁: J For Res 16 (5): 341-350
題名: 中国の森林における窒素沈着と窒素流出
著者: Yunting Fang,Per Gundersen,Rolf D. Vogt,木庭啓介,Fusheng Chen,楊宗興
所属: 中国科学院華南植物園
抄録: 中国の50のサイト,69の森林における林外雨,林内雨,渓流水による窒素フラックスのデータをまとめ,(1)林外雨,林内雨による窒素のインプット,(2)樹冠通過による窒素の変化,(3)窒素沈着の増加に対応した窒素流出の増加があるか,について検討した。無機態窒素の林外雨による沈着は2.6~48.2 kg N ha−1 yr−1で平均は16.6 kg N ha−1 yr−1であり,アンモニウムが主な形態であった(平均で無機態窒素インプットの63%)。無機態窒素のフラックスは樹冠を通過することで,平均して広葉樹林で40%,針葉樹林で34%の増加を見せた。中国の森林については,平均して無機態窒素インプットのうちの22%が流出してゆくという結果になったが,この値はヨーロッパで報告されている50~59%という値よりも低かった。単純な計算によって中国の森林は広大な森林面積と高い窒素沈着により,高い二酸化炭素の吸収能力を有しているであろうことが示唆された。
種類: 特集/総説
Title: Nitrification and nitrifying microbial communities in forest soils
巻頁: J For Res 16 (5): 351-362
題名: 森林土壌における硝化と硝化微生物群集
著者: 磯部一夫,木庭啓介,大塚重人,妹尾啓史
所属: 東京大学大学院農学生命科学研究科
抄録: 多くの森林生態系において窒素の可給性が植物の一次生産の制限要因になっている。そのため,森林の中で窒素の循環がどのように制御され,環境の変化がその循環にどのような影響を及ぼすのかは,森林生態学の主要な研究テーマである。さらに大気からの窒素負荷の影響に対する近年の関心の高まりと相まって,このテーマはより一層注目されつつある。これまで森林の窒素循環研究は様々な環境要因との関連の観点からなされてきた。しかし,微生物群集との関連についての研究は少ない。近年の培養に依存しない分子生態学的手法の発展の中で,微生物生態学者たちは窒素循環の変化は微生物群集の変化と密接に関わっていることを発見してきた。本総説では,窒素循環プロセスの中でも硝化を中心に,硝化とそれを担う微生物群集の関連を探るための一般的なアプローチについて解説する。またその関連について解析した研究例を紹介する。我々は窒素循環プロセスと微生物群集の動態の関連を探ることにより,森林生態系において窒素の循環がどのように制御されているのか,よりよく理解できるだろうと考えている。
種類: 特集/原著論文
Title: Gross nitrification rates in four Japanese forest soils: heterotrophic versus autotrophic and the regulation factors for the nitrification
巻頁: J For Res 16 (5): 363-373
題名: 国内4地点森林土壌における硝化:従属栄養性硝化の寄与と硝化の制御要因
著者: 黒岩恵,木庭啓介,磯部一夫,舘野隆之輔,中西麻美,稲垣善之,戸田浩人,大塚重人,妹尾啓史,諏訪裕一,楊宗興,浦川梨恵子,柴田英昭
所属: 東京農工大学農学府
抄録: 森林土壌における硝化の制御要因を明らかにするため,環境条件が大きく異なる北海道から九州にわたる4地点の森林を対象に,表層土壌(0~10 cm)の総無機化,硝化速度を同位体希釈法によって測定した。さらに,アセチレンガスを独立栄養性硝化の特異的な阻害剤として用い,総硝化速度における従属栄養性硝化の寄与率を求めた。地点間において,総窒素無機化速度(3.1~11.4 mg N kg−1 day−1)と総硝化速度(0.0~6.1 mg N kg−1 day−1)には顕著な差異が見られた。本研究においては,全地点で従属栄養性硝化速度は小さく,国内の多くの森林表層土壌において従属栄養性硝化の寄与が小さいことが示唆された。独立栄養性硝化速度と総無機化速度,全窒素濃度,全炭素濃度,の間には有意な相関が見られたが,独立栄養性硝化速度とpH間には相関が見られなかった。本研究においては,独立栄養性硝化が生じるようになる総無機化速度の閾値は6 mg N kg−1 day−1であり,それ以上の総無機化速度では,総無機化速度の上昇に伴って直線的に独立栄養性硝化速度が上昇した。また,独立栄養硝化はC/N比が15~20より高い場合には生じていなかった。本研究の結果から,アンモニウムの可給性が低い状況下ではアンモニウムの生成と消費が緊密に連携し即座に生じる事で,独立栄養硝化細菌によるアンモニウムの利用を妨げていることが示された。
種類: 特集/原著論文
Title: Changes in nitrogen transformation in forest soil representing the climate gradient of the Japanese archipelago
巻頁: J For Res 16 (5): 374-385
題名: 日本列島の気候傾度における森林土壌内の窒素変換の変化
著者: 柴田英昭,浦川梨恵子,戸田浩人,稲垣善之,舘野隆之輔,木庭啓介,中西麻美,福澤加里部,山崎朱夏
所属: 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
抄録: レジンコア法を用いて森林表層土壌の現地移動培養を行うことにより,異なる気候条件下での正味窒素変換速度を調べた。調査地は日本列島における自然の気候傾度を考慮に入れて設定した。研究地点は日本列島の北から南に分布する天然林から,北海道北部(雨龍),関東北部(草木),近畿中部(上賀茂),九州南部(高隅)に設置した。2008年6月から2009年5月にかけて,採取地と移動地において土壌の現地培養実験を行った。各地において,成長期(6~10月),休眠期(11~5月),年間における,土壌のアンモニウム態窒素と硝酸態窒素の正味生成,蓄積,溶脱速度を測定した。草木土壌では特に成長期において正味硝酸生成速度が最も高かったのに対し,最寒地である雨龍土壌では特に休眠期での正味アンモニウム生成が最も高かった。土壌中の正味硝酸生成速度はより温かい気候下へ移動することによって有意に上昇した。しかしながら,正味アンモニウム生成速度について,より寒い気候下へ移動することによって上昇した。上賀茂の貧栄養土壌を除いて,日本における自然の気候レンジは表層土壌の窒素有効性に有意に影響することが示された。また,各採取地における表層土壌の窒素循環の初期特性は,移動培養による著しい地温変化(約8℃)においても保持されていた。
種類: 特集/原著論文
Title: Seasonal change in N2O flux from forest soils in a forest catchment in Japan
巻頁: J For Res 16 (5): 386-393
題名: 森林小流域における土壌からのN2Oフラックスの季節変化
著者: 森下智陽,相澤州平,吉永秀一郎,金子真司
所属: 森林総合研究所四国支所
抄録: 温帯森林土壌は,温室効果ガスであるN2Oの主要な放出源の一つである。本研究では,N2Oフラックスの季節変化と土壌温度,土壌水分率,硝化速度との関係を明らかにするために,関東北部の森林小流域の斜面上部広葉樹林,斜面下部スギ林でクローズドチャンバー法を用いて,3年間にわたり,N2Oフラックスの観測をおこなった。斜面下部のN2Oフラックスは,土壌温度が高い程大きかったが(r2 = 0.383,P < 0.01),斜面上部のN2Oフラックスは,土壌温度,土壌水分率,硝化速度との明瞭な関係が見られなかった。N2Oフラックスは,斜面下部(中央値 2.36 μg N2O-N m−2 h−1)の方が斜面上部(中央値 1.10 μg N2O-N m−2 h−1)よりも大きかった。これは夏期における土壌水分率が,斜面下部で斜面上部よりも高いためと推察された。
種類: 特集/原著論文
Title: Soil nitrogen dynamics during stand development after clear-cutting of Japanese cedar (Cryptomeria japonica) plantations
巻頁: J For Res 16 (5): 394-404
題名: スギ人工林の皆伐から再成立するまでの土壌窒素動態の変化
著者: 福島慶太郎,舘野隆之輔,徳地直子
所属: 京都大学フィールド科学教育研究センター
抄録: 護摩壇山試験地(GEF)において,林齢の異なる5つの人工林(5, 16, 31, 42, 89年生)において,土壌無機態窒素濃度,純窒素無機化・硝化速度,土壌窒素収支から推定される植物の窒素吸収量,および土壌へのリター供給量を調べた。土壌の純窒素無機化速度は若齢林・高齢林間で有意な差は認められなかったが,土壌含水率や無機態窒素濃度は高齢林よりも若齢林で高かった。植物の窒素推定吸収量は16年生林分で最も高く,31年生林分で最も低かった。また,リターのC量やC:N比と有意な負の相関関係が見られた。89年生の高齢林分では土壌のC:N比が最も高く,また土壌無機化速度に対する硝化速度の割合(硝化率)が低く,植物のNH4+推定吸収量が高かった。これらの結果は,土壌有機物の質的変化が土壌の窒素動態に影響を与えたことを示す。すなわち,スギ人工林の成立に伴ってリターや土壌有機物の質的・量的が変化したことで土壌窒素動態が変化し,林冠の閉鎖する時期には土壌からの窒素供給量と植物による窒素要求量との間に不均衡が生じる可能性が考えられた。
種類: 特集/原著論文
itle: Soil properties and nitrogen utilization of hinoki cypress as affected by strong thinning under different climatic conditions in the Shikoku and Kinki districts in Japan
巻頁: J For Res 16 (5): 405-413
題名: 四国と近畿地方の異なる気象条件において強度な間伐が土壌の性質とヒノキの窒素利用に及ぼす影響
著者: 稲垣善之,中西麻美,深田英久
所属: 森林総合研究所
抄録: 気象条件と強度な間伐が土壌の有機物層,表層土壌,植物の窒素と水分利用に及ぼす影響を四国と近畿地方のヒノキ林で調査した。高知県,愛媛県,香川県,京都府において35林分を選定した。調査林分における年平均気温は9.6~16.3℃,年降水量は1,350~3,960 mmであった。年降水量が多いほど,有機物層の炭素量と窒素量は減少した。多雨地域においては,土壌酸性度が低く有機物分解が速やかであること,雨滴によってリターが流亡しやすいことが少ない有機物層の炭素量,窒素量の要因として考えられた。年平均気温が高いほど深さ5 cmまでの表層土壌の炭素量,窒素量が小さい傾向が認められたが,降水量との関係は有意ではなかった。多雨地域では雨滴によってリターが流亡し,植物が利用できる窒素資源が低下すると考えられた。強度な間伐によって有機物層の炭素量と窒素量は低下したが,ヒノキ葉の窒素濃度や炭素安定同位体には差が認められなかった。これらの結果より,気象条件や強度な間伐は,有機物層の炭素量,窒素量に影響を及ぼし,土壌中における利用可能な窒素量に影響を及ぼすが,ヒノキの窒素や水利用に及ぼす影響は顕著ではなかった。
種類: 特集/原著論文
Title: Effects of carbon and nitrogen amendment on soil carbon and nitrogen mineralization in volcanic immature soil in southern Kyushu, Japan
巻頁: J For Res 16 (5): 414-423
題名: 南九州の火山灰性未熟土への炭素と窒素の添加が炭素・窒素無機化に与える影響
著者: 山崎朱夏,舘野隆之輔,柴田英昭
所属: 鹿児島大学大学院農学研究科
抄録: 土壌における窒素無機化過程は,炭素および窒素の利用可能量によって制限される微生物バイオマスや微生物活性の影響を受ける。本研究では,土壌中の微生物動態や無機態窒素動態に炭素と窒素の利用可能量がどのような影響を与えるかを明らかにするため,土壌炭素・窒素含量が他の日本の森林土壌と比べて少ない九州南部の火山灰性未熟土を用いて,炭素と窒素の添加培養試験を行い,炭素と窒素の無機化量,微生物バイオマス炭素および溶存有機態炭素・窒素の変化量を150日間にわたって測定した。その結果,炭素添加に対して微生物バイオマスと微生物呼吸量(炭素無機化量)は増加し,純窒素無機化量は減少した。これは,微生物による不動化量が増加したことによると考えられた。一方で,窒素添加に対して微生物呼吸量は減少し,純窒素無機化量は増加した。これは,微生物による不動化量が減少したことによると考えられた。炭素と窒素を同時に添加した場合には,純窒素無機化量はやや増加したが,微生物バイオマスと微生物呼吸量は変化が見られず,炭素の利用可能量が大きい場合には窒素添加による微生物呼吸の阻害効果が見られなくなることが示唆された。以上の結果から本研究に用いた火山灰性未熟土では,微生物のバイオマスや呼吸活性が,炭素の利用可能量によって制限されていることが明らかになった。炭素や窒素の基質が極めて少ない本調査地の未熟土でも,根からの浸出物や地上部・地下部リターの分解産物などの炭素源が与えられることにより,微生物が活性化し窒素無機化が進行するものと考えられた。