フォーラム「森林学の過去・現在・未来」の趣旨
フォーラム「森林学の過去・現在・未来」の趣旨
井上 真
(いのうえ まこと、日本森林学会 常任理事(企画・広報・HP 編集担当))
今年は国際森林年です。国内外で様々なイベント等が行われることでしょう。また、昨年10 月には「生物多様性条約第10 回締約国会議(COP10)」が愛知県名古屋市で開催され、「愛知目標」や「名古屋議定書」が採択されました。そして、COP10 での合意に基づいて提案された「国連生物多様性の10 年」(2011_2020 年)およびIPCC の生物多様性条約版である「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の設置が国連総会で決議されたところです。国内に目を転じてみると、政権交代に伴って2009 年12 月に「森林・林業再生プラン」が公表されました。それを受けて設置された「森林・林業基本政策検討委員会」の最終とりまとめ「森林・林業の再生に向けた改革の姿」が、2010 年11 月に公表されています。今後は、市町村森林整備計画のマスタープラン化、森林経営計画(仮称)の策定、意欲と能力のある主体に限定した「森林管理・環境保全直接支払制度」の導入、フォレスター制度の創設などを通し、10 年後の木材自給率50%以上を目指しての施策が展開されることになるでしょう。3月11 日の未曾有の大地震災害からの復興についても考えなければならないでしょう。
こうした国内外の森林・林業・山村をめぐる激動する情勢のなかで、森林学は社会に対してどんな貢献ができるのでしょうか。現実の社会で生じている諸問題と研究行為との距離は、学問分野の性質により、また個々の研究者の信念によって異なるものでしょう。問題解決に直結する課題や技術開発を主目的とする実践的・実用的な研究もあれば、人類全体の知的財産の蓄積に貢献し100年後の人々に光明を与えるような基礎的な研究もあるでしょう。そのようなすべての研究に価値があることは疑いありません。実務に関わる方々も関わる森林学の場合は、まさにこの両者の共存とバランスが求められます。そして、実践的・実用的な研究だけが重視されがちな社会情勢のなかで、いかにすれば両者のバランスを維持し、実学としての森林学を発展させ、あるいは再構築することができるのでしょうか。
このような問題意識にもとづき、森林学を構成する代表的な分野の研究に携わっている本学会評議員の方々に「森林学の過去・現在・未来」について自由に論じていただく予定です。本号では日本森林学会会長である宝月岱造氏が学会ウェブサイトに掲載したアピールを掲載します。次号(63 号)から1 号あたり4 名づつ3 号連続(65 号まで)、合計12 名(1 人1 ページ)の論考を掲載する予定です。そして、本誌への掲載と同時に学会ウェブサイトへ「ウェブ・フォーラム」としてアップロードいたします。どうかご期待下さい。