国際森林年にあたって
国際森林年にあたって
宝月岱造
(ほうげつ たいぞう、日本森林学会会長)
今年は「国際森林年」(International Year of Forests) です。国連は重点的問題の解決を全世界の団体・個人に呼びかけるため年ごとに国際年を設定しており、2006 年12 月の国連総会決議で「国際森林年」に設定された今年は、“Forests for People”をテーマに掲げています。また、我が国独自のテーマとして「森を歩く」が決まっています。このテーマのもと、現在と未来の世代が、全てのタイプの森林の持続可能な利用と保全に向けた高い意識を育むよう、各国が森林に関する様々な行事を実施することになります。日本森林学会は、「国際森林年」にあたり、森林の重要性と森林に関わる私たちの役割を再確認するとともに、森林の持続的利用と保全への取り組みを、広く皆さんに呼びかけます。
森林は、木材やパルプの元となる樹木資源の生産の場として、私たちの生活を支える大切な生態系です。我が国でも、森林面積の4 割がスギやヒノキを中心とする人工林として利用されています。また、森林はその他にも多様な機能を発揮して、私たちの生存や生活に貢献しています。我が国では古くから、特に水質を浄化し保水する働き、河川の水量を安定させて水害を防ぐ働き、土砂災害を防ぐ働きに注意が払われており、現在では森林の5 割がそのための保安林として保護されています。我が国は、国土の7 割近くが森林で覆われている森林大国で、大変恵まれていますが、地球全体で見ると、森林は、地表の3 割を占める陸地のそのまた3 割しかありません。森林が存在することそのものが、日々生きていく上でとても幸運なことです。森林の様々な機能は、どれをとっても私たちの生活や生存にとって欠くことの出来ない大切なものです。私たちは、このことに改めて思いを致し、森林の保全に力を尽くさなくてはなりません。
近年地球全体の森林面積は、毎年日本の森林の3 割分が無くなるという驚くべきペースで急激に減少しています。森林の持つ木材生産、水質の浄化・保水、水害や土砂災害の防止といった多様な機能を持続的に享受し続けるためには、この世界的な森林の減少を食い止め、既に破壊された森林を再生させる手だてを考えることが必要です。
我が国の森林について言えば、森林面積はここ何年もほぼ一定に保たれています。農林水産省が平成21 年12 月に「森林・林業再生プラン」を発表するなど、森林・林業の未来を守るための議論も盛んになってきています。様々な立場から知恵を出し合って、森林破壊への道をたどらないよう注意深く管理し保全して行かなくてはなりません。
一方、森林生態系の重要性に対する国際社会の認識も、1992 年の地球サミット以来ますます深まってきています。たとえば、気候変動枠組み条約(UNFCCC) でも、森林はかつてないほど注目が高まっています。世界各地で森林が破壊されていますが、それに伴う二酸化炭素の排出量が石油や石炭の燃焼によるものに次いで大きいことから、UNFCCC では、地球温暖化に直結する森林破壊を防ぎ、森林を適切に利用・管理して保全することを求めています。また、こうした背景のもとで、現在、持続可能な森林管理の努力に対する費用負担メカニズムであるREDD+ が、熱い議論の的となっています。
生物多様性条約(CBD) でも、森林はきわめて重要な生態系としてその役割が期待されています。2010 年10 月に名古屋で開催された第10 回締約国会議(COP10) では、2011 年以降の新戦略計画(愛知目標)が採択されました。その中で、保護地域設定の目標値として陸域17%、海域10%が合意されましたが、この陸域の相当部分は森林生態系になると予想されます。「名古屋議定書」において、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)が議論の対象なりましたが、その相当部分は熱帯多雨林や熱帯季節林に存在しています。会議では、「SATOYAMA イニシアティブ国際パートナーシップ」が発足し、人為の入った二次的な自然における森林の重要性についても国際的な認識が高まりました。また、「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の早期設立を第65 回国連総会に提案することも決定されました。本年の「国際森林年」を契機に、森林に関わる主要プレーヤーである国家、市民や企業、森林に居住する先住民等、様々な人々が等しく森林の恵みを受けられるよう、今後さらに力強
い国際的取り組みが期待されています。
私たち日本森林学会は、森林を持続的に利用し環境保全機能を守ることが、私達の生活に不可欠なことだと考え、森林管理の現場や基礎研究の場において、広く社会に対して様々な貢献をするべく、日々努力を重ねています。「国際森林年」を機会に、このアピールを読んでくださった皆さん一人一人が森林に興味を持ち森林の重要性を認識し、私たちと手をたずさえながら森林の保全にとってプラスになる活動に参加して下さることをお願い致します。
さて、最後に学会員の方々に一言申し上げます。私たち日本森林学会の会員には、森林の将来を決める重要な提案に対して様々な形で関わって行くことが求められています。学会員の皆様にも、日頃の研究成果を実際の森林管理の場で生かせるよう、この機会により一層の活発な活動をお願い致します。また、国内外の政策的取り組みにも積極的に関わり、森林の持続的利用と環境保全機能の充実を実現できるよう、力を尽くして頂きたいと思います。日本森林学会は、これまでの学術活動や実務活動を基盤とした取り組みにより、「国際森林年」をサポートしたいと考えています。実行可能な良いアイディアをご提案頂けると幸いです。
(平成23 年1 月1 日、日本森林学会ウェブサイト掲載)