第130回日本森林学会大会/企画シンポジウム一覧

企画シンポジウムは,会員がコーディネータとなって企画する、森林学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムです。

S1 未利用木材利用可能量推計および収穫システム
Availability estimation and harvesting system of unused woody materials

コーディネータ: 有賀一広(宇都宮大学)、図子光太郎(富山県農林水産総合技術センター森林研究所)

平成24年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度FIT(Feed-in Tariff)が開始され,木質バイオマス発電,特に固定価格が高値に設定された未利用木材(森林バイオマス)を燃料とする発電施設が,平成29年3月時点で,全国で122ヵ所認定され,すでに39ヵ所で稼動しています。未利用木材を燃料として利用することは,林業振興や山村の雇用創出などに貢献することが期待されていますが,一方で出力5,000kWで60,000t/年程度が必要とされる未利用木材を買取期間20年間,安定して調達できるかが懸念されています。そこで本企画シンポジウムではこれまで「日本全国の長期的な森林バイオマス利用可能量推計モデル」と「未利用木材の収穫システム」に関する研究を行ってきた研究者にご講演いただき、これらの研究の現状と課題を整理し、今後の木質バイオマス発電の採算性向上に資する未利用木材長期安定供給シナリオの提示、新たな産業となる森林バイオマスサプライチェーンの確立,そして安定的な未利用木材の供給体制の構築に関して議論を深めたいと考えております。多数の皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

S2 日本の人工林における気候変動適応策を考える
Adaptation to climate change for Japanese forestry

コーディネータ: 齊藤哲(森林総合研究所)、長池卓男(山梨県森林総合研究所)、中尾勝洋(森林総合研究所)

気候変動に対する森林の影響評価・適応策についてはこれまで世界的にも様々な場で議論されてきた。日本でもブナ林などでは将来的な潜在生育適域の変化が推測され、保護区域の見直しや孤立個体群の積極的管理などが提唱されている。政策面では平成30年に「気候変動適応法」が成立し、気候変動適応に向けての法的措置が講じられた。農林水産分野に関しては平成28年に「農林水産省気候変動適応計画」が策定され、農畜産業では作物栽培や家畜飼育の環境の管理などの方策が示されている。しかし、生育環境の管理が困難な林業分野に関しては影響評価の高度化の必要性と適応策の着手が言及されている程度で十分な適応策が提示されているとはいえない。海外では林業分野においても積極的に適応策が議論され、報告などもみられる。そこで本シンポジウムでは日本における人工林を対象とした適応策について討議することを目的とする。まず議論に先立ち適応策の概念の整理と海外の適応策の報告事例の紹介を行う。続いて日本における影響評価・適応策の現状を示し、海外事例の日本への応用の可能性や今後の方向性などについて行政からの視点を交えて議論する。

S3 森林土壌は温暖化を加速するのか?
Will Global Warming be Accelerated by Forest Soil Carbon Decomposition?

コーディネータ: 寺本宗正(国立環境研究所)、丹下健(東京大学)、梁乃申(国立環境研究所)

土壌には、約3兆トンもの有機炭素が蓄積している。土壌中の微生物がその有機炭素を分解し、大気中に二酸化炭素として放出する(微生物呼吸)ため、土壌は二酸化炭素の大きな排出源ともなっている。植物根の呼吸も合わせると、全球における土壌の年間二酸化炭素排出量(土壌呼吸)は、炭素換算で約980億トンとも推定されている。これは人為起源の二酸化炭素排出量の約10倍に相当する量である。そのうち微生物呼吸は、土壌呼吸の約7割を占めると考えられる。また、微生物呼吸は、温度上昇に対して指数関数的に上昇する性質がある。そのため、温暖化によって土壌有機炭素の分解が促進され、さらに温暖化を加速させるという悪循環が想定されている。一方で、温暖化によってどれほど微生物呼吸が増進するのか、また、その増進効果はどれほど持続するのかといったことに関しては、統一的な見解は得られていない。これらの点が、温暖化の将来予測に関して、大きな壁となっている。その理由としては、陸域の気候や植生、土壌組成は多様であるため、地域によって温暖化に対する微生物呼吸の応答が異なるということが考えられる。アジアモンスーン地域は、植生タイプやバイオマスに富んだ、広大な地域である。そのため、温暖化に関する将来予測の上でも、重要な地域であると考えられる。特に、日本の森林土壌に注目すると、世界の平均と比して単位面積あたり7割ほど多い土壌有機炭素が含まれているとされるため、温暖化に対する微生物呼吸の長期的な応答も、これまでの欧米における報告と異なる可能性がある。そこで本シンポジウムは、日本を含むアジアモンスーン地域の森林土壌における微生物呼吸に対し、温暖化がおよぼす影響評価とメカニズムの解明をテーマとし、観測、モデル解析、微生物や土壌有機炭素の化学的分析など、分野横断的な研究発表を行い、活発な議論を交わすことを目的とする。

S4 現代の林業専門教育はどうあるべきか —森林科学・技術と社会を再考する
What matters in professional forestry education system in Japan? -rethinking forest science, technology and society

コーディネータ: 田村典江(総合地球環境学研究所)、奥山洋一郎(鹿児島大学)

戦後に造林した針葉樹人工林が収穫期を迎えるとともに、国産材需要は上向きに転じ、日本の林業は一時の低迷期を脱したように見える。林業成長産業化に向け、担い手の育成確保の必要性が叫ばれ、林業大学校設立や研修の拡充などの制度的支援が行われている。 一方で、人口減少と都市化、豪雨災害や鳥獣被害の増加、環境意識の高まり、デジタル化など多様な要因のために、日本のみならず世界各地で、市民社会と森林との関係が変化している。諸外国では、時代の変化に対応したあるべき林業専門教育に関する議論が行われてきたが、日本では、近年まで林業専門教育をめぐる研究や議論は停滞しており、新たな林業専門教育に関する議論は活発にはなされてこなかった。しかしながら、近年、林業の再活性化とともに、観光、レジャー、エネルギーなど新たな森林の利用への関心も高まり、林業への注目が高まっている。林業をふたたび山村地域の基幹的な産業として構成するためには、正確な伐倒・集材技術の習得だけではなく、幅広く森林と社会のつなぎ手となる人材の育成が必要ではないだろうか。

折しも森林環境譲与税が始まるなか、科学的にありうる選択肢と地域社会のニーズや思いを受け止めて将来を描く専門技術者の必要性が市町村レベルでいっそう高まりつつある。行政と地域社会が林業技術者に寄せる期待は高く、これに応えるためにもあるべき専門教育と、それを支えうるあるべき森林科学技術について、分野横断的に検討する必要がある。

本企画シンポジウムでは、林業技術者育成に携わってきた研究者が、当事者の視点も含んで現状の専門教育システムを概観する。同時に、中部地域の先進的な林業実務者が現場経験を踏まえて教育や科学に対するニーズや期待を述べる。両者の報告を踏まえて、望ましい現代的な林業専門教育のあり方や、森林科学・技術と社会のよりよい関係について包括的な議論を行うことを目的とする。

S5 津波に対する減災を目的とした「多重防御」の一翼を担う海岸防災林造成のための生育基盤盛土の現状と課題 —「樹木根の成長と機能」共同シンポジウム—
Current state of the berm constructed as a growth medium of coastal forests with the disaster reduction function, which must play an important role of the multiple protection function against mega-tsunami, and related challenges

コーディネータ: 小野賢二(森林総合研究所)、野口宏典(森林総合研究所)、野口享太郎(森林総合研究所)

東日本大震災大津波によって被災した海岸防災林の復旧は、「東日本大震災からの復興の基本方針」、「「復興・創世期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」等に基づいて行われている。この事業には、海岸防災林が従前有していた公益的機能の回復に加え、津波に対する減災を目的とした「多重防御」の一翼を担うことも期待されている。そのため、再生・復旧された海岸防災林では植栽木根系の健全な成長が担保されるよう、盛土をして嵩上げすることによって、十分な有効土層厚を確保し得る生育基盤の造成がなされているところである。

海岸防災林の復旧事業着手初期には、基盤造成時に天端面を走行した重機の転圧により生育基盤盛土が締め固まり、固結層の形成や透排水性不良の事例が散見された。こうした状況は、植栽時の植え付け穴の作成を困難とし、植栽後の樹木の活着や生育、健全な根系成長の確保に対して影響を与えることが懸念された。そのため、現在進められている事業では、固結層の形成を抑制し、排水・透水性を確保する生育基盤造成工法へと改善がなされている。

本シンポジウムでは、海岸防災林再生事業における生育基盤造成の現状を、事業発注者、施工者および植栽事業者の視点からご報告を頂く。また、海岸防災林の根系成長を規定する要因に関する研究成果についてご紹介頂き、海岸防災林再生事業の現状との関係について情報を共有し、今後の課題と、それらを解決するための方向性について、議論を深める場としたい。

S6 林木の育種期間短縮への挑戦 —無花粉スギの育種事例—
Challenging breeding cycle reduction: a case study of male sterile tree breeding in Cryptomeria japonica

コーディネータ: 上野真義(森林総合研究所)、森口喜成(新潟大学)、松本麻子(森林総合研究所)

林木の品種改良や優良種苗の生産・普及に要する期間を大幅に短縮することは、林木に求められる新しい需要に迅速に対応する上で重要なことである。イネなどの主要な作物ではモデル生物で培われたゲノム解析技術を育種に応用することで、新しい品種の開発が進められている。一方で林木、特に針葉樹は、巨大なゲノム(遺伝情報の総体)を持つため、ゲノム配列の解読も容易ではない。さらに一年生の草本とは異なり、交配が可能になるまで育成する時間も数年単位で必要である。このような特徴を持つ林木の育種期間を短縮するために、ゲノム解析技術や組織培養技術の活用が役立つと期待される。

 本シンポジウムでは、スギ花粉症対策として重要な無花粉スギ(花粉の発育過程に異常があるため花粉を飛散しないスギ)の育種期間の短縮に向けた研究事例として、スギのゲノム解読、無花粉スギの原因遺伝子(雄性不稔遺伝子)の探索、無花粉スギの選抜マーカーの開発、無花粉スギの苗木を生産するための組織培養技術の開発について報告する。また、作物分野で先端的な育種をされている方の研究から話題を提供する。以上を踏まえて林木の育種期間の短縮について今後の研究開発の方向性を議論したい。

S7 環境変化にともなう森林の生産性と分布の予測
Forest productivity and distribution under changing environment

コーディネータ: 渡辺誠(東京農工大学)、北尾 光俊(森林総合研究所)

産業革命以降、化石燃料の消費増大に代表される人間活動によって、森林を取り巻く環境は劇的に変化している。気候変動に伴う降水量の変化、大気CO2濃度の上昇、窒素や硫黄などを含んだ酸性物質の沈着量の増加、オゾンやPM2.5などの大気汚染物質が森林生態系に与える地球規模の影響が懸念されている。このような環境変化は、光合成活性の低下、土壌の養分・水分の利用性や病虫害に対する抵抗性といった様々なプロセスに複雑な変化を与え、森林の生産性や分布に影響を与える。そして、そのフィードバック作用として、森林からの養分・水分および揮発性有機化合物などの放出特性も変化する。数十年以上かけて蓄積される森林バイオマス、環境資源としての森林の持続的利用、そして流域レベルでの物質循環の将来予測を行う上で、これら人為的な環境変化と森林・樹木における相互作用の理解は避けて通ることができない重要な課題である。本シンポジウムでは、このような研究課題に対して世界レベルでリードしてきた北海道大学の小池孝良氏に、樹木に対して長年にわたり実施されたCO2やオゾンFACE実験で得られた研究成果を総括していただく。そして、関連分野の研究者による環境変化と森林・樹木の関係についての講演を加えて、包括的な討論を行う。様々な分野における最新の知見を持ち寄り、日本をはじめとしたアジア地域の森林に対する大気環境の変化の影響と将来の展望を議論する。特に異なる分野間の異なるスケールで得られた知見を、どのように融合していくのかについての議論を深めることを目的とする。

S8 スギの分布変遷を古森林学的研究手法から明らかにする
Distribution change of Cryptomeria japonica cleared by introduction of paleoforestry methods

コーディネータ: 志知幸治(森林総合研究所)、木村恵(森林総合研究所)、岡本透(森林総合研究所)

スギは日本の固有種であり、日本海側を中心に青森県から屋久島まで広範囲に天然分布している。日本海側に分布するものをウラスギ、太平洋側に分布するものをオモテスギと呼ぶが、両者は遺伝的に分化していることが明らかになっており、過去の気候変動に対応して分布範囲が変化していったと考えられる。一方で、スギ天然林は、江戸時代以降の大量伐採により大きく減少したが、戦後の拡大造林などの影響でスギ人工林の割合が増加するなど、近年のスギの動態に及ぼした人間活動の影響は大きいといえる。

 スギの分布変遷に関して、かつては、氷期に若狭湾、伊豆などに逃避していたスギが完新世の温暖化に伴って分布を拡大したとする説が支配的であったが、近年では日本各地に存在していたスギの小集団が、完新世に分布を拡大したとする説が有力になっている。しかし、スギが拡大を開始した気候的な要因や、スギの小集団が拡大した範囲については明らかになっていない。また、人間活動がスギに及ぼした影響についても、スギ天然林が減少した時期や減少に及ぼした人為的要因は詳細には明らかになっていない。

 本シンポジウムでは、森林の変遷や人間との関わりについて調べることができる方法(古森林学的研究手法)として、生態学、集団遺伝学、林政学などの視点による事例研究を組み合わせることにより、スギの分布変遷や、それが生じた気候的・人為的要因について議論したい。

S9 日本の伝統的な漆文化を継承する国産漆の増産に向けた取組
Recent studies toward high urushi lacquer production for keeping traditional urushi culture in Japan

コーディネータ: 田端雅進(森林総合研究所)、渡辺敦史(九州大学)

ウルシの樹脂を含む樹液(漆)は、9000年前の縄文時代から接着剤や塗料等に使われ、日本人に広く親しまれている。漆は国宝・重要文化財の保存・修復等伝統文化の維持に貢献してきたが、昨今伝統文化を支える国産漆の供給が危機的状況にある。現在、日本で使用される漆の約97%を中国産が占め、国産漆は残り3%程度しか生産されていない。国宝・重要文化財の保存・修復において国産漆と中国産漆を混合して使用してきたが、国においては2018年までに国産漆のみを用いた国宝・重要文化財の保存・修復を進める方向で取り組んでいることから、安定的な需給体制を確立する必要性が高まっている。これまで平成22年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業及び平成28年度農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(現、イノベーション創出強化研究推進事業)で研究を行い、第123・124・129回森林学会テーマ別シンポジウムにおいてウルシ林の管理技術や樹脂生産量と樹皮組織の関連性等について報告し、情報共有した。

 今回のシンポジウムでは、国宝・重要文化財の保存・修復に関わる国産漆使用において不可欠なウルシについて、ウルシ林の植栽適地、植栽地で問題になる病気、漆が良く出る個体を確実に識別・同定出来るDNAマーカーの開発、国産漆の生産性に関わる収益性を技術的・社会科学的な視点等の研究成果を発表していただき、国産漆増産に向けた課題を整理し、今後のウルシ林管理のあり方について議論を深めたい。

S10 森林教育研究のさらなる展開を目指して—教育学、実践現場との関わりを通じて
For seeking to extend forest education research activities: associating with various pedagogists and specialists of forest administration

コーディネータ:  井上真理子(森林総合研究所)、東原貴志(上越教育大学)、芦原誠一(鹿児島大学)、山田亮(北海道教育大学)

森林・林業分野では、「森林環境教育」の提唱(1999年)や「木育」の提唱(2004年)など、教育活動が推進されている。日本森林学会大会では、森林教育に関するセッション(企画シンポジウム)が2003年(第114回大会)から設けられ、2018年(第129回大会)から教育部門が設置された。

森林教育の研究史は古く、1930(昭和5)年の林學會春季大会では、「我國林業教育の改善について」と題する討論が行われている。近年では、林業大学校の新設が相次いでおり、教育研究は、ますます推進が期待されている。ただし、森林に関わる教育活動は、専門家養成のための専門教育から一般市民や子ども達向けの普及活動まであり、活動内容も幅広く、さまざまな実践活動が行われている一方、研究方法などの研究蓄積が豊富とは言い難い。森林教育を研究対象として捉え、森林科学の一部門として研究の発展を図るには、境界領域にある多様な分野の多様な研究者や教育活動の実践者などの視点を交えて、研究に取り組む必要があるといえる。

 教育部門が新設された昨年の第129回大会では、森林に関わりが深い環境教育、野外教育、理科教育、木材学や建築学、さらに教育活動の実践者や行政担当者などと共に、「森林教育研究のさらなる展開を目指して」と題した企画シンポジウムを開催した。学会大会後には、日本野外教育大会で「野外教育と森林教育とのコラボレーション」と題した企画(2018年6月、後援:日本森林学会)が実施され、好評を得るなど、教育をめぐる学会間の交流に進展している。そこで、森林教育のさらなる展開を目指して、前回大会に引き続き、境界領域の他分野の研究者や活動実践者から発表を集めた企画シンポジウムを企画した。森林学の知見の普及に関心のある研究者や人材育成に関わる多くの学会員にご参加頂き、共に議論を行いながら、森林教育研究の可能性を追求してゆく機会としたい。

S11 森林の分子生態学の研究成果を世界に発信するために—研究のデザインから論文投稿まで—
How to publish your forest molecular ecology data for the world: From research design to journal submission

コーディネータ:  津田吉晃(筑波大学)、玉木一郎(岐阜県立森林文化アカデミー)

大量遺伝データの取得技術の向上や集団遺伝学・ゲノミクス解析法の急速な発展により、森林分生態学分野では以前にも増して魅力的な研究が可能となってきた。さらに最近では研究者間の国際ネットワーク構築、人材交流やSNSを通じた情報交換が容易になったこともあり、より広域な国際研究展開が可能となってきたことも近年の関連研究の発展の重要要因となっている。このような世界的な潮流の中で、世界でも”クオリティは高い”と言われてきた日本の森林分子生態学の質を今後も維持し、また独自性を出していくためには、国際競争力も視野に入れた研究展開、森林現場への応用、そしてそのための教育、グローバル人材育成が重要といえる。このような場面において研究の国際誌への論文掲載はそのための最初の一歩であり、英語論文執筆は研究をする上で大きな意味をもつ。しかし、学会等で発表した研究内容が公表されていないことも多いのも実情である。本シンポジウムでは、海外経験も豊富で、さらに論文執筆活動あるいはその教育も積極的に行っている若手からベテランまでの研究者の講演を通じて、どのように研究をデザインし,材料採取、データ解析、論文執筆に取り組むべきか、どのように外国語を習得し、共同研究を進めるか,またそれにより、どのように自身の研究にフィードバックがあるのかについて概観する。そしてこれら議論を通して日本の森林分子生態学がより一層、世界レベルで活発化することを目的とする。

なお、本シンポジウムの演者は海外ポスドク経験者、海外の研究グループと国際研究展開をしている者、外国語教育に従事している者、育休取得経験者などからも構成されている。そのため、分子生態学を主眼としたシンポジウムではあるが、専門分野に関わらず国際誌論文投稿、海外ポスドク、海外研究展開、ライフ・ワーク・バランスなどに興味のある方の参加も歓迎したい。

S12 生理部門企画シンポジウム「窒素-吸収・分配・再利用」とポスター1分紹介
Physiology Section Symposium “Nitrogen in trees – uptake, partitioning and recycling” and poster introduction

コーディネータ:  則定真利子(東京大学)、田原恒(森林総合研究所)、小島克己(東京大学)、斎藤秀之(北海道大学)、津山孝人(九州大学)

講演会「窒素-吸収・分配・再利用」と生理部門のポスター発表の1分紹介からなる生理部門の企画シンポジウムを開催します。

 生理部門では樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指します。個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象とした多様な手法によるアプローチを対象として、以下のキーワードを掲げています:樹木生理、個体生理、生態生理、水分生理、栄養成長、生殖成長、物質輸送、栄養、環境応答、ストレス耐性、光合成、呼吸、代謝、細胞小器官、細胞壁、植物ホルモン、組織培養、形質転換、遺伝子発現、ゲノム解析、エピゲノム解析、オミクス解析。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに本シンポジウムにご参集頂きたいと考えております。

 講演会では、植物の主要養分のひとつであり、樹木の生育の制限要因となりやすい窒素を取り上げ、その吸収や個体内における分配、代謝、再利用について理解を深めることを目的に、森林総合研究所の韓慶民氏、宮澤真一氏と信州大学の田中(小田)あゆみ氏に、現在の知見の概説を含めて研究成果を披露頂きます。

 1分紹介では、生理部門でポスター発表をされる方に発表内容を1分間でご紹介頂きます。大会での発表申し込みの締め切りの後に、生理部門でのポスター発表に発表申し込みをされた方々に1分紹介への参加を呼びかける予定です。

S13 車両系林業機械が森林に与える影響の解明
Effects of vehicle-based forest machinery on forest environment

コーディネータ: 倉本惠生(森林総合研究所)、中澤昌彦(森林総合研究所)、服部力(森林総合研究所)

主伐・間伐の推進、低コスト化、生産性の向上が求められる中で林業機械は大きな役割を果たしています。車両系林業機械は伐採から再造林までの各工程に活用され、高い生産性と安全性から、今後もさらなる活用が期待されます。一方で、車両機は森林内に直接乗り入れて作業を行うことから、土壌や立木など森林環境に影響を与える可能性があります。しかしその実態は日本ではほとんど明らかにされていません。

 車両系林業機械の影響は、機体が林地を直接走行することによるものと、立木を損傷させることによるものがあります。林地への影響として代表的なものは土壌の締固めがありますが、その発生実態やその後の変化については十分に分かっていません。締固めは土壌の通気性や透水性を低下させることで、植栽木の生育や土壌中の物質の動態にも影響すると考えられますが、これらの点はさらに分かっていません。立木の損傷は腐朽につながると懸念されていますが、それについても解明すべき点が山積みです。

 これまで林業機械の作業については主に森林利用の分野で研究がなされてきました。しかし林業機械が森林に与える影響を理解するためには、森林土壌、樹木の生理や生態、森林微生物などの研究者がさらに連携して研究を進める必要があります。そこで、車両系林業機械の影響の解明というテーマについて、まずは様々な分野の方に関心を持っていただき、理解を深め、今後の進展を促すべく、本シンポジウムを企画しました。本シンポは、1)車両系機械の走行による土壌の物理性や構造の変化、2)走行による土壌の養分や微生物の動態、植栽木の生育への影響、3)立木の損傷による腐朽 の3部構成となっています。現在行われている研究の知見を講演いただいて、それぞれの部で討論を行います。そこでは、現時点の理解を整理し、今後の課題や取り組みの方向性を議論する予定です。ぜひお気軽にご参集ください。