日本森林学会誌104号7巻(2023年1月)
[論文] 東京都多摩地域北西部の広葉樹二次林における外生菌根菌の種多様性評価
白川 誠(東京農業大学大学院農学研究科 東京大学大学院農学生命科学研究科)ほか
キーワード: 子実体, きのこ, コナラ, アカマツ, インベントリ
2022年104巻7号 p351-362
https://doi.org/10.4005/jjfs.104.351
[要旨] 都市近郊二次林における外生菌根菌(以下,菌根菌)の種多様性を明らかにするために,東京都青梅市のコナラを優占樹種とする二次林において,ラインセンサスおよびプロットサンプリングを実施し,子実体436個,菌根327根端,菌核3個の計766サンプルを採取した。形態分類およびrDNA-ITS領域を対象とした分子生物学的解析の結果,23科41属159 MOTUの菌根菌が同定され,林内にはテングタケ属,イグチ科,カラハツタケ属,ベニタケ属,ロウタケ属,ラシャタケ属が広く分布していることが確認された。一方で,ショウロ属やヌメリイグチ属など,センサスルート上やプロット内の各所において局所的に分布する菌種も多数確認された。これらのことから,人為的攪乱を受ける比較的小面積の二次林においても多様な菌根菌種が生息していることが明らかになった。また,プロットから得られた菌根菌を対象とした階層クラスター分析では,各プロットは共通の頻出群を有するものの,局所的に分布する科によって特徴づけられた。樹種構成の相違や人為的攪乱,林内に存在する多様な微地形といった要因が群集組成に影響を及ぼしていることが示唆された。
[論文] 保安林制度と林業経営との関係―茨城県常陸太田市民有水源かん養保安林に注目して
加藤 葉月(筑波大学理工情報生命学術院生命環境科学研究群)ほか
キーワード: 経営規模, 税金対策, 森林整備, 森林法, 聞き取り調査
2022年104巻7号 p363-373
https://doi.org/10.4005/jjfs.104.363
[要旨] 森林や林地の保続にとって保安林制度は重要な役割を果たしてきた。本研究では民有保安林における制度運用の把握及び民有水源かん養保安林と林業経営との関係性の分析を目的に,茨城県常陸太田市を事例に県行政担当者及び森林所有者5名に対して聞き取り調査と資料収集を行った。その結果,木材生産収入を目的に林業経営を行う保安林所有者は,概ね100 ha以上の森林を所有し,その過半に水源かん養保安林の指定を受けていた。常陸太田市における2016~20年度の主伐率と間伐率の年度平均値を保安林と非保安林で比較すると,保安林の方が主伐率,間伐率共に高い値を示した。水源かん養保安林の指定により固定資産税の非課税,相続税評価額の控除を受けられることから,税負担の軽減を図りながら木材生産を行う実態を示すものとなった。一方,保安林非所有者は所有林面積が小さく税金対策の必要性が低いため,保安林指定には消極的であった。水源かん養保安林の指定は民有林の持続的林業経営に寄与すると考えられるが,税制上の優遇措置による恩恵が指定面積により異なることから,所有林面積の多寡は森林所有者の保安林指定を望む要因の一つであると考えられる。
[論文] 秋田地方における120年生カラマツ人工林の林分構造と成長過程
酒井 敦(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所東北支所)ほか
キーワード: 長伐期化, 間伐, 林分材積, 総平均成長量, 多雪地域
2022年104巻7号 p374-379
https://doi.org/10.4005/jjfs.104.374
[要旨] 長伐期施業は多様な森林を造成する選択肢の一つである。スギやヒノキでは高齢林の成長データが充実しているが,カラマツに関しては少ない。そこで,秋田県の120年生カラマツ人工林で成長経過を調べ,多雪地におけるカラマツ人工林の長期的な成長や適切な伐期について検討した。カラマツ林には四つの調査区が設定され,初期段階に強度の異なる間伐が実施された。120年生時の立木密度は160~240本・ha-1,胸高直径は平均45.8~56.0 cm,樹高は平均31.6~36.6 mだった。直近10年間に冠雪害による樹高成長の鈍化がみられたが,直径は旺盛に増加していた。そのため,直近の材積成長量は5.5~8.6 m3・ha-1・yr-1と120年生になっても成長を維持していた。間伐材積を含めた総材積は1,035~1,173 m3・ha-1であり,間伐強度や回数の影響は小さかった。総平均成長量は約60~90年生時に最大となり,材積成長の面から伐期の目安となり得る。
[その他:シンポジウムの記録] 教育部門シンポジウム「社会人で博士を取得した経験者が語る」開催報告
井上 真理子(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所多摩森林科学園)
キーワード: 社会人博士, 森林教育, 人材育成, 技術教育
2022年104巻7号 p.380-383
https://doi.org/10.4005/jjfs.104.380