日本森林学会誌105巻3号(2023年3月)

[論文] 小面積皆伐と地表かき起こしによるストローブマツ人工林から針広混交林への転―15年間にわたるストローブマツと天然林構成種の更新動態―

高橋 功一 (東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林北海道演習林) ほか
キーワード: 外国樹種, 天然更新, 在来樹種, 稚樹, ササ
2023 年 105 巻 3 号 p. 65-75
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.65
[要旨] 1950年代に北海道で大規模に造林された外来樹種であるストローブマツ林は,針広混交林への転換が求められている。本研究では,ストローブマツ人工林を小面積(25×25 m)で皆伐し,そのまま放置した「小面積皆伐区」とその後に地表かき起こしをした「かき起こし区」を設定して,高木種の更新を15年間調査した。本研究では,1)かき起こし区の方が更新密度が高いが,小面積皆伐区の方が更新木の成長がよい,2)小面積皆伐に加えてかき起こしによって,ストローブマツの更新が促進される,3)各区内のコドラートの相対位置によって光条件が不均質となり更新密度が異なる,という仮説を立てた。その結果,仮説1は支持された。またストローブマツは小面積皆伐区では更新しなかったが,かき起こし区では主な更新木となっており,仮説2も支持された。一部の樹種では,北側に比べて南側や西側のコドラートで更新密度が高く,仮説3は支持された。以上から,ストローブマツ人工林の小面積皆伐は針広混交林への転換に有効で,ササが濃くなく前生稚樹が存在する条件では,小面積皆伐のみで放置することも有効と考えられた。

[論文] 日本におけるキャンプ場を通じた森林利用の発展と現状

平野 悠一郎 (国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所関西支所)
キーワード: 地域活性化, 社会的承認, 森林有効活用, 薪生産
2023 年 105 巻 3 号 p. 76-86
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.76
[要旨] 第二次世界大戦後の日本では,1950~70年代の各部門に跨る制度基盤の構築等を背景に,1980~90年代に森林内でもキャンプ場が次々に設置され,幅広い社会的承認に基づく森林利用としての地位が確立された。2000年代以降は,経済不況等を受けてキャンプ場経営が悪化し,その中から民間を中心とした再生の動きが見られてきた。この動きは,近年,キャンプ場を通じた森林利用を多様化させる方向性を示している。すなわち,森林内での教育・体験を掲げる組織キャンプ,滞在を主目的としたソロキャンプ,グランピング,ワーケーション,或いは,レジャーの充実等の利用者ニーズに対応した施設整備がなされてきた。また,この多様化の結果,キャンプ場運営を通じた様々な森林の有効活用と地域活性化への可能性が生まれている。各地のキャンプ場では,林地,立木,森林空間が活用され,利用者向けの薪生産が,森林管理・経営の担い手確保を含む地域の林業経営の再編・発展を促した事例も見られる。また,それらがもたらす雇用の確保に加え,利用者のニーズを地域の経済効果,交流・関係人口の増加,地域資源の総合的・持続的な利用に結びつける形で,地域活性化が促されつつある。

[論文] 漆滲出長と成長・葉特性を用いた漆滲出量の多いクローンの簡易判別

田端 雅進 (国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所東北支所) ほか
キーワード: ウルシ, クローン, 漆滲出量, 漆滲出長, 成長特性, 葉特性
2023 年 105 巻 3 号 p. 87-95
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.87
[要旨] 国宝・重要文化財の保存・修復のために日本産漆の増産や安定供給が不可欠である。しかしながら,漆滲出量の多いクローンはほとんど明らかになっていない。本研究ではDNA分析によって茨城県7カ所の分根由来のウルシ林におけるクローン構造を解明し,複数のウルシクローンの漆滲出量を測定した。さらに漆滲出長,成長特性および葉特性と漆滲出量との関連性を調べ,漆滲出量の間接的な評価が可能な指標を探索した。その結果,調査したサイト1~7においてクローンA~Jの10クローンが検出され,検出されたクローンEが全体の約50%を占め,植栽個体に特定クローンの偏りが生じていた。漆滲出量はクローン間で有意な違いがあり,また胸高直径においてもクローン間差が認められ,胸高直径が大きいクローンで漆滲出量が多かった。また,成長・葉特性についてはサイトが異なってもクローンの順位がほとんど変わらず,10年生前後から20年生の個体を対象に漆滲出量の多いクローンを漆滲出長に加えて胸高直径や葉特性から簡易に判別できると考えられた。

[短報] 原発事故からおよそ10年が経過した福島の森林利用の状況

木村 憲一郎 (福島県)
キーワード: 福島第一原発事故, 事故からの10年, 森林利用
2023 年 105 巻 3 号 p. 96-102
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.96
[要旨] 本研究では,福島第一原発事故からおよそ10年が経過した福島県を対象に,木材,食材,空間利用の三つの視点から森林利用の現状と今後の課題を明らかにした。その結果,食材利用は未だ大きく停滞しているものの,木材利用と空間利用は県全体では回復の傾向がみられた。とくに空間利用の回復には施設運営者や行政による継続的な空間線量率のモニタリングと周知が利用回復に寄与していると考えられた。相双地域の現状は他地域と異なり,素材生産量回復の遅れには,地域特性のみならず,国有林材の生産縮小の影響が大きかった。今後の課題として,木材利用では山元立木価格の上昇と広葉樹材の需要拡大,食材利用では出荷制限の解除,空間利用では安全性の周知に向けた継続的なモニタリングの必要性が指摘できる。