日本森林学会誌105巻8号(2023年8月)
[論文] グイマツ×カラマツF1雑種「クリーンラーチ」挿し木苗の最適な休眠導入条件
来田 和人(北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場)ほか
キーワード: 休眠導入, 休眠解除, 短日, 高温, 頂芽形成
2023 年 105 巻 8 号 p. 265-274
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.265
[要旨] 炭素固定能が高く,野鼠害抵抗性,材強度に優れるグイマツ(Larix gmelinii var. japonica)×カラマツ(L. kaempferi)のF1雑種「クリーンラーチ」は,挿し木で苗が生産されているが,挿し付け時期が限られること,育苗ハウスの環境制御が難しく得苗率が低いことから需要を満たしていない。そこで筆者らは閉鎖型育苗施設で挿し木苗の通年生産技術を開発している。自然環境下では休眠導入できない9月に挿し付けた苗を対象に最適な休眠導入条件を検討するため,短日条件下(8時間)で温度を23℃,10℃,5℃,暗黒条件下で-5℃に段階的に下げる試験を実施した。23℃の工程を省略し10℃で短日(8時間)処理を開始すると頂芽が形成されず,最初に高温(23℃)短日処理が必要であった。23℃短日処理を行わない,もしくは次のステップの10℃短日処理が短い(1週間)と休眠導入中に苗が枯死し,休眠解除後の成長に負の影響があった。23℃短日3週間->10℃短日4週間->5℃短日2週間の休眠導入条件の場合,暗黒条件下での-5℃4週間の低温暴露で休眠が解除され,その後の生存,成長も良好であった。
[論文] 鹿児島県の森林土壌におけるアーバスキュラー菌根菌の胞子密度
畑 邦彦(鹿児島大学農学部)ほか
キーワード: アーバスキュラー菌根, 胞子密度, 森林土壌, 林分間変動, 季節変動
2023 年 105 巻 8 号 p. 275-283
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.275
[要旨] 森林におけるアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の胞子密度とその変動を明らかにするため,2014年6月~11月に鹿児島県内11カ所から土壌を採取してAM菌の胞子をウェットシービング法により抽出した。その結果,10カ所ではどの試料でも胞子が確認されたが,桜島の火口に近いクロマツ林ではどの試料でも確認されなかった。ここを含め,胞子密度が特に低かった林分が3カ所あった。AM菌の胞子密度の季節変動が有意だった調査地では,6月に高い値を示した後に低下し,以降は11月まで低い値で推移した。一方,クロマツ林におけるAM菌の胞子密度と直近のクロマツ及びススキとの距離の間には有意な相関はなかった。また,広葉樹林におけるAM菌の胞子密度は直近の高木がアーバスキュラー菌根性でも外生菌根性でも有意な差はなかった。
[短報] ロシア連邦における国立公園制度の現状 ―「特別自然保護地域法」(N33-FZ)を中心に―
タタウロワ ナデジダ(岩手大学大学院連合農学研究科)ほか
キーワード: ロシア連邦, 国立公園, 自然保護制度, 国立自然保護区, 特別自然保護地域法
2023 年 105 巻 8 号 p. 284-290
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.284
[要旨] 本稿の課題は,ロシア連邦の自然保護制度の根拠法である,「特別自然保護地域法」(N33-FZ)の分析から国立公園の位置付け及びその制度の特徴を明らかにすることである。2000年代以降の変化は次の通りである。2013年の法改正により,国立公園の管理・運営は連邦予算機関が担うことになった。国立公園には私有地や先住民族等の住民が存在し,その権利に配慮する条文が追加され,それらを反映した六つのゾーニングに区分されている。近年,国立公園の条文には具体的な禁止事項が複数追加され,利用圧の高まりを反映したものと思われる。一方で,個人または法人への土地の賃貸が可能になるなど,より利用を助長する方向へと制度が改正された。