日本森林学会誌106巻3号(2024年3月)

[論文] 多雪山地における積雪層を経路とした融雪流出機構

相浦 英春(富山県農林水産総合技術センター森林研究所)ほか
キーワード: 多雪山地, 積雪層, 融雪期, 電気伝導度, 流出機構
2024 年 106 巻 3 号 p.41-48
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.41
[要旨] 多雪山地における融雪期の流出機構には,積雪内部での融雪水の挙動が大きく関わるものと想定して調査を行った。対象とした飛騨変成岩類を基盤岩とする流域では,基底流出時の渓流水の電気伝導度が高く,増水に伴ってその値が低下した。多雪山地の流域において厳冬期の日平均気温は概ね0℃以下で,流域への水の供給は積雪底面での融雪水のみであった。その後,日平均気温が 0℃を上回るようになると,表面融雪が発生し融雪水が渓流へと流出するようになった。融雪初期にはわずかな増水に対して渓流水の電気伝導度が大きく低下したが,融雪が進み流出量が増加する過程で,同様の電気伝導度の低下はより大きな増水にともなって発生するように変化した。このような融雪期の流出量とECの関係の変化は,表面融雪水の一部が地表まで鉛直浸透せずに,積雪層内を流出経路とする側方流として渓流まで達していることによると推定された。したがって多雪山地の融雪期の流出機構には,積雪が大きく関わるものと考えられた。

[論文] 自走式搬器を用いたタワーヤーダによる下げ荷集材可能範囲の抽出方法の開発

木野 朗斗(京都府立大学大学院生命環境研究科)ほか
キーワード: 地理情報システム(GIS), 数値標高モデル(DEM), 集材可能範囲, 架線下高
2024 年 106 巻 3 号 p.49-56
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.49
[要旨] 本研究はタワーヤーダを用いての集材可能な範囲を広域的に抽出することを目的としており,自走式搬器による下げ荷の集材が可能な範囲をGISを用いて抽出する方法を開発した。本研究では,谷の入り口をタワーヤーダの設置位置と仮定し,DEMを用いて対象林内全域での谷の入り口付近にある路線上に元柱となるポイントを作成した。続いて,GISで作成した可視範囲図等により,元柱から周囲360 °で尾根を越えない水平距離500 m以内の範囲を抽出し,架線の垂下を考慮して架線下高の算出を行った。また,各架線を架線下高によって5~80 mを集材可能範囲,5 m未満を要中間サポート範囲,80 m以上を搬器走行可能範囲の三つに分類し,集材区分図を作成した。実際に集材した範囲と比べると,下げ荷による集材がなされた範囲はほぼ全てが包含されており,抽出できなかった範囲は尾根を越えての架設がされていた範囲であった。本研究の手法は先柱やガイラインの設置可能性については現地での判断が必要であるものの,広域的にタワーヤーダによる集材可能範囲を把握するのに有効であると考えられた。

[短報] 大学キャンパスのOECM登録に向けた課題の検討
―福島大学金谷川キャンパスを事例として―

藤野 正也(福島大学食農学類)ほか
キーワード: 30by30, 自然共生サイト, 生物多様性, 大学組織運営
2023 年 106 巻 3 号 p. 68-74
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.68
[要旨] 本研究は30by30目標達成に向けて,2009年からキャンパス内の生物多様性保全制度が運用されている福島大学金谷川キャンパスを事例に,福島大学での制度制定過程と運用状況を明らかにし,大学組織運営の観点から大学キャンパスのOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)登録に向けた課題を考察した。その結果,福島大学では制度上の不備はあったものの事案発生毎に大学と教員の間で協議が行われ,制度運用には大学と教員の間の緊密な連携が重要であることが分かった。OECM登録に向けては,希少種の保護に限らず,人間と関わる自然環境も対象となるため,多くの大学が登録の可能性を秘めていると考えられた。生物多様性に対する活動の有効性およびモニタリングの実施が登録に向けた主要な課題と考えられた。登録をきっかけにキャンパスを教育や研究に活用することは,大学ならではのOECMの利用方法であると考えられた。

[その他:書評] 風よけの気候景観―暮らしを守る屋敷林・防風林

磯谷 達宏(国士舘大学文学部地理学教室)
2024 年 106 巻 3 号 p. 75
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.75